株式会社ユーダイモニア

事業立ち上げ時に知っておきたい絞り込み戦略

この記事でわかること

  • Amazon、Apple、ソニー、ユニクロが創業時に「何に絞ったか」
  • スタートアップ理論が示す「小さく始める」ことの重要性
  • 自社の事業を絞り込むための3つの実践ステップ

「幅広いサービスを提供すれば、より多くの顧客を獲得できる」——このように考えて事業を始めたものの、思うように顧客が獲得できずにお悩みの方も多いのではないでしょうか。

実際、弊社がこれまで支援してきた企業の中でも、創業初期に「総合的なサービス提供」を掲げた結果、ターゲットが不明確になり、マーケティング施策の効果が出ないというケースを数多く見てきました。

一方で、現在誰もが知る巨大企業の多くは、創業時に驚くほど「狭い」領域に特化していました。Amazonは書籍のみ、Appleは25年間パーソナルコンピュータのみ、ソニーは従業員20数人でテープレコーダーとトランジスタラジオの2製品のみ、という具合です。

本記事では、なぜ事業の初期段階では「絞る」ことが成功確率を高めるのかを、具体的な企業事例とスタートアップ理論の両面から解説します。これから事業を立ち上げる方、あるいは既存事業の方向性を見直している方の参考になれば幸いです。


成長企業の創業戦略に見る「絞り込み」の実態

グローバル企業の創業戦略を分析すると、多くが初期段階で事業領域を極めて狭く設定していることが分かります。以下の表は、現在の時価総額と創業時の事業内容を比較したものです。

世界的企業の「絞った」スタート地点

企業名 創業年 最初の事業 絞った期間 現在の時価総額
Amazon 1995年 書籍専門EC 3年間 約2.3兆ドル
Apple 1976年 パーソナルコンピュータ 25年間 約4兆ドル
ソニー 1946年 テープレコーダー+トランジスタラジオ 約10年間 約22兆円
ユニクロ 1984年 広島の郊外カジュアル衣料店 約10年間(地方基盤固め) 約15兆円

※時価総額は2025年12月時点の概算値

見てください。Appleは25年間もパソコンだけを作り続けていたんです。2001年にiPodを出すまで、ひたすらコンピュータ. 2007年のiPhone発売時には、わざわざ社名から「Computer」を外して「Apple Inc.」に変更しました。


事例①:Amazon|書籍専門ECから始まった「地球最大の店」

Amazonは1995年の創業当初、書籍専門のECサイトとして事業を開始しました。現在では「なんでも売っている」総合ECとして知られていますが、音楽CDへの拡大は1998年6月、つまり創業から3年後のことです。

なぜ書籍を選んだのか

創業者のジェフ・ベゾスは、オンライン販売に適した商品カテゴリを検討する際、20カテゴリから5つ(CD、コンピュータ、ビデオ、書籍)に絞り込み、最終的に書籍を選択しました。その理由は以下の3点です。

理由 具体的な内容
① 圧倒的な商品数 当時、英語だけで150万冊以上が流通. 物理店舗では絶対に並べられない品揃えを実現できる
② 郵送の容易さ 腐らない、壊れにくい、形状が均一。配送コストとリスクが低い
③ カタログ化の容易さ 画像なしでもタイトルと著者名で購入判断ができる。商品説明がシンプル

ベゾスは1997年のインタビューで次のように述べています。

「書籍カテゴリには、他のどのカテゴリよりもはるかに多くのアイテムがあります。これほど多くのアイテムがある場合、他の方法では存在し得ない店舗をオンラインで構築できます」

つまりAmazonの戦略は、商品カテゴリを「書籍」に絞りつつ、その領域では「地球最大の書店」を目指すというものでした. 事業領域を絞り込むことと、その領域内で圧倒的な地位を築くことは、両立可能です。

音楽CDへの拡大は1998年6月、創業から3年後のことでした。


日本企業の事例に見る普遍性

「海外の巨大IT企業だから可能だった戦略では?」という疑問を持たれる方もいるかもしれません。しかし、日本企業においても同様のパターンが確認できます。むしろ、より小規模な状態から事業を開始している例が多く見られます。

事例②:ソニー|従業員20数人・資本金19万円から始まった技術特化戦略

1946年、終戦直後の東京で井深大と盛田昭夫が創業したソニー(当時は東京通信工業)は、極めて小規模な状態から事業を開始しました。

創業時の規模:

  • 従業員:20数人
  • 資本金:19万円
  • 事業:テープレコーダーとトランジスタラジオのみ

設立趣意書には、次のように記されています。

「大きな会社と同じことをやったのでは我々はかなわない。技術の隙間はいくらでもある」

この方針のもと、「大会社ではできないこと」「技術的に困難なこと」という明確な差別化軸を設定しました。当時のアメリカでさえ「補聴器にしか使えない」とされていたトランジスタ技術に着目し、世界初のポケットサイズトランジスタラジオ(1955年)を開発しています。

約10年間この2領域に集中した後、ウォークマン(1979年)、PlayStation(1994年)と、常に「先行企業が参入していない領域」を追求する形で事業を拡大してきました。現在の時価総額は約22兆円に達しています。

事例③:ユニクロ|郊外1号店から全国展開へ至る段階的拡大戦略

1984年、柳井正は父から継承した紳士服店を転換し、広島にユニクロ1号店を開店しました。当時、紳士服市場は既に大手チェーン(洋服の青山、AOKIなど)が郊外型店舗で市場を押さえていた状況です。

後発参入となる柳井は、既存プレイヤーとの差別化を図るため、次の3軸に事業を絞り込みました。

  • 商品:安価なカジュアル衣料(紳士服チェーンが扱わない領域)
  • 販売方法:セルフサービス(接客人件費の削減)
  • 立地:郊外ロードサイド(家賃の抑制)

柳井はインタビューで、この戦略が自身の性格的特性とも合致していたと述べています。

「紳士服のように接客を必要とせず、物が良ければ売れるという点が自分の性に合った」

注目すべきは、全国展開を急がなかった点です。中国地方での基盤固め→全国展開→SPA化→海外進出と、段階的に事業領域を拡大しています。現在の時価総額は約15兆円に達しています。


スタートアップ理論が示す「小さく始める」ことの重要性

企業事例に加えて、スタートアップ研究の領域でも「初期段階での事業の絞り込み」を支持する理論的枠組みが複数提唱されています。ここでは代表的な3つの理論を紹介します。

① リーン・スタートアップ:学習に貢献しない要素の削除

エリック・リースが提唱する「リーン・スタートアップ」の考え方では、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)の構築において、以下の原則が示されています。

「MVPを構築する際は、このシンプルなルールに従え:求める学びに直接貢献しない機能、プロセス、努力はすべて削除せよ」

MVPは「最小限の努力で顧客について最大限の学習を収集できる製品バージョン」と定義されており、機能の追加ではなく、何を削るかという判断が重要とされています。

② プロダクト・マーケット・フィット(PMF):唯一重要な指標

ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンは、スタートアップのライフサイクルを「PMF達成前」と「PMF達成後」の2段階に分類し、次のように述べています。

「唯一重要なのはPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を達成することだ」

PMFを達成していない状態では、以下のような兆候が見られます。

  • 顧客が製品・サービスの価値を実感していない
  • 口コミによる自然な拡散が起きない
  • 継続的な使用や購入につながらない

そのため、初期段階では事業領域を絞り込み、「特定の顧客層に対して確実に価値を届けられる」状態を構築することが優先されます。

③ Zero to One:小さな市場の独占から始める

PayPal共同創業者であり、『Zero to One』の著者でもあるピーター・ティールは、次のように主張しています。

「すべてのスタートアップは最初は小さい. すべての独占企業は市場の大きなシェアを支配している. したがって、すべてのスタートアップは非常に小さな市場から始めるべきだ」

ティールはPayPalの事例を引き合いに出しています。当初、PayPalは「メールで送金できる」という汎用的なサービスを目指していました。しかし、eBayの大口出品者(パワーセラー)から「小切手郵送→入金確認に1週間かかる」という具体的な課題に関する問い合わせが殺到したことが転機となりました。

PayPalは当初の計画を変更し、eBayユースケースに特化。数千人という限定的なユーザー層で圧倒的なシェアを獲得してから、段階的に市場を拡大していきました。


注意点:市場が存在しない領域への「絞り込み」は避けるべき

ここまで事業の絞り込みの重要性を述べてきましたが、「絞れば何でも成功する」わけではありません。実際に解決すべき課題が存在するかの検証が不可欠です。

失敗事例:Juiceroが示す教訓

Juiceroは、Wi-Fi接続機能を備えたハイテクジューサー(699ドル)と専用ジュースパック(1袋5ドル)を販売し、累計1億2000万ドルの資金調達に成功しました. しかし2017年に事業停止に至っています。

表面的な失敗要因は「手でパックを絞っても同じ量のジュースが出る」ことの発覚ですが、本質的な問題は別にありました。そもそも「家庭でのジュース作りにおける課題」が顕在化していなかったのです。

Y Combinator創業者のポール・グレアムは、次のように警告しています。

「応募してくるグループの多くは、競合を避けようとして、小さく奇妙なニッチを選んでいる」

「適切な絞り込み」と「市場不在」の区別

適切な絞り込み 市場が存在しない絞り込み
顧客が実際に困っている具体的な課題を解決している 誰も困っていない「想像上の課題」を解決しようとしている
規模は小さくても、確実に市場が存在する 「競合がいない」ことを市場機会と誤認している
顧客が「これがないと困る」と明言する 顧客の反応が「あったら便利かも」程度に留まる

事業を絞り込む際は、ターゲット顧客に直接ヒアリングを行い、課題の存在を検証するプロセスが不可欠です。


実践:事業の絞り込みを行う3つのステップ

企業事例と理論を踏まえ、自社の事業を絞り込むための具体的なアプローチを3ステップで整理します。

Step 1:解決する課題を一文で明確化する

「誰の」「何の課題を」解決するのかを、一文で表現できることが重要です。以下の企業事例を参考に、自社の場合を考えてみましょう。

  • Amazon:物理店舗では実現不可能な150万冊の品揃えを求める読書家の課題
  • ソニー:大企業が参入しない技術的に困難な領域における市場ニーズ
  • ユニクロ:接客不要で良質な衣料品を低価格で購入したい顧客の課題

この表現ができない場合、事業の絞り込みが不十分である可能性があります。

Step 2:初期ユーザー10名との関係構築に注力する

Airbnb創業者のブライアン・チェスキーは、次のように述べています。

「10人にでも何かを愛させるのは本当に難しい. でも、彼らと大量の時間を過ごせば難しくない」

100名に「ある程度良い」と評価されることよりも、10名に「これがないと困る」と言われることを目指すことをおすすめします。そのためには、ターゲット顧客と直接対話し、課題の深さを理解することが不可欠です。

Step 3:限定領域内での「最大化」を図る

事業を絞り込むことと、その領域内で圧倒的な地位を築くことは両立可能です。以下の表は、各企業が絞り込んだ領域内でどのような最大化を図ったかを示しています。

企業 絞り込んだ領域 領域内での最大化
Amazon 書籍 「地球最大の書店」を目標に設定
ユニクロ 中国地方 地域内で圧倒的なシェアを獲得
Facebook ハーバード大学 学部生の50%以上が1ヶ月で登録

絞り込んだ領域内で「なくてはならない存在」となることが、次の拡大フェーズへの基盤となります。


まとめ|事業の絞り込みは成長の出発点

本記事では、Amazon、Apple、ソニー、ユニクロといった成長企業の事例と、リーン・スタートアップ、PMF、Zero to Oneといったスタートアップ理論を通じて、事業初期における絞り込みの重要性を解説しました。

LinkedInの共同創業者リード・ホフマンは、次のように述べています。

「大きく考えるのをやめて、小さく考え始めろ」

事業の初期段階では、広範な領域をカバーすることよりも、特定の顧客層が抱える具体的な課題に対して確実に価値を届けられる状態を構築することが重要です. その基盤の上に、段階的な拡大戦略を構築していくことをおすすめします。

弊社では、事業戦略の策定からデジタルマーケティングの実行支援まで、幅広いサポートを提供しております. 事業の絞り込みや成長戦略にお悩みの際は、ぜひご相談ください。


参考文献

  • Eric Ries『The Lean Startup』(2011年)
  • Peter Thiel『Zero to One』(2014年)
  • Marc Andreessen “The only thing that matters”(2007年)
  • Paul Graham “Do Things that Don’t Scale”(2013年)
  • 各企業公式サイト・プレスリリース
  • Nippon.com「バラックから世界のソニーへ:盛田昭夫生誕100年」
  • PHP「柳井正氏はいかにしてユニクロを築いたのか」
  • Jeff Bezos interviews(1997-2000年)

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